寿司ゲームと100円DISKの歴史
虚空にむけて、男は語った。
「並寿司5人前食いてぇなぁ。」
夕方の京王線上り各駅停車には、まだ人もまばらで、私は隣に座った男を見た。
男は虚空に向けて語っていた。 何も、食いたがるだけなら並寿司でなくてもいいのに。
男は今、何をしているだろう。 10年前の京王線で、並寿司を食べたがった男。
労働者風の体裁で汚れてはいるが、けして異臭を放っているわけではなく。 ただ淡々と自分の世界を構築する男。
気がつけば、男の発した言葉に突き動かされてきた。 男との出会いの後、私は会社を辞めて同人ソフトを作った。
それが、最初の‘寿司ゲーム‘だ。 次々と落ちてくるカタカナの寿司ねたを拾い集めるゲーム。
シンプルすぎるし、技術的な工夫もなかったゲーム。 おとこの言葉に支配されて、つくらされたゲーム。
最初の寿司ゲームは100円disk2に収録された。 カタカナの寿司ねたが落下し、それをとる。
このゲームで、文学的な表現の可能性を感じた。 つぎに私はファミコンゲーム、”マグマプロジェクト・ハッカー”を作った。
このゲームはRPGで、その時は単なるプログラマーだった。 しかしながら、街を歩く男の一人に、こう言わせた。
「並寿司5人前食いてぇなぁ。」
もうすでに、男の言葉から、逃げられない。
並寿司を欲しがる男、並寿司男。
私は作り続けた。男が次のゲームを望んだ。
VA版寿司ゲームだ。
落ちてくるねたが漢字で表示された。ただそれだけだ。
これは、100円disk3に収録された。
並寿司男は、まだ満足しなかった。
私は、98版寿司ゲームを作り、98・100円diskに収録した。
100円disk4では、ふぁーふぁゲームを作った。
作ったといっても、絵を描いて作詞をしただけだが、コンピュータでできる 新しい表現を見つけることができた。
後に、この歌は”まにきゅあ団”によって再び日の目を見ることになる。
かわいいハズのぬいぐるみのくまが、柔軟仕上げ剤を宣伝するという、 アバンギャルドなCMにインスパイアされてつくった。
しかし、次の100円disk5では、また並寿司男が夢枕に立った。
むしろ、この時すでに私は並寿司男になっていた。
私は”寿司パズル”を作った。
伝統的な魔法陣というタイプのパズルに寿司のキャラクターをあてはめただけのゲー
ムだ。
100円disk6ではさらに、このゲームの面を新規に作成したバージョン、 ”スーパー寿司ゲーム”を作った。
そのあとに、このパズルゲームの系譜は同梱の”寿司パズル for Windows”に結実す
る。
問題は、ゲーム中のパズルのスペルが間違っていることだ。
結論から言うと、このゲームのソースは無くなってしまった。
当初、VisualBasic2.0で作成し、シェアウェアとして登録したこの
ゲーム。
95年年末の即売会向けに作り替える際にBASICを新しいバージョンにしたら、
バックアップの失敗でソースはVisualBasic4.0用のソースに書き換わ
ってしまった。
ソースはもうないので、スペルミスが直せない悲しいソフト。
そして、最新バージョンはあまりにも必要なファイルが増えすぎて、ネットワークで
配布できない状態だ。
もう一つの系譜、”寿司ゲーム”では、98用のグラフィックを使った寿司ゲーム
を発表。
数年おいてMac用の寿司ゲームを発表した。
現在、Mac用のものは私のホームページからダウンロードできる。
ホームページは寿司だらけになっている。
あまりのも沢山の寿司ゲームを作った。
そのゲームの行方は私の人生そのものだ。
バージョンアップしたがために配布できないソフト。
戻りたくても戻れない10年前の京王線。
もう1つ後の車両に乗っていれば、この文章もすべての寿司ゲームたちも存在しなか
った。
寿司ゲームたちを見て、人生に影響を受けた人がいるのだろうか?
もし、一人でもいれば、私は並寿司男としての任務を終えたといえるかもしれない。
私の中の並寿司男は満足したのだろうか? 今でも、あの京王線の風景がよみがえってくる。
男は今でも語っている。
「並寿司5人前食いてぇなぁ。」
1996.3.11 奥山喜正 (うすあじソフト)
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